転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


99 お父さんは魔法の知識がない



 僕がひとしきり笑ってやっと落ち着いたと言う事で、大人たち3人はまた僕が作ったポーションについての話を再開するみたい。

「実験は司祭様にお願いするとして、結果が出てもこのポーションは表に出す事はできないんですよね? ならどうして実験をするんですか?」

「ああそれはですね、廉価版を作ろうと思っても最大効果が解らなければどうしようもないからなんです」

 バーリマンさんが言うには今のままだと表には出せないけど、この二つのポーション事態はかなり有用な物だから、なんとか流通できる程度の効果に押さえたものを作りたいんだって。
 そしてそれを作るためにはこのポーションの力をできるだけ性格に把握しないと、研究しても効果が強すぎてやっぱり表に出せなかったり、逆に弱すぎて使い物にならなくなったりするらしいんだ。

「だからもし司祭様に実験の了承が得られた時は、ポーションを使った際の経過を手紙で教えていただきたいのです。手紙に関しての料金は此方でお支払いしますので」

 と言う訳で、バーリマンさんは髪の毛さらさらポーションをお爺さん司祭様に使った時の効果を手紙で知らせて欲しいって言うんだ。
 でも、それに対してお父さんはちょっと困った顔になったんだ。

「手紙ですか? まぁ、司祭様なら教養もありますから問題なく手紙をかけるとは思います。ですが、うちの村に行商が来るのは月に一度程度だから連絡するにも期間が開きすぎませんか?」

 そう。僕たちの村に行商人が来てくれるのは月に一度程度なんだよね。

 その上その行商人さんも、うちの村に来てすぐにイーノックカウに引き返すわけじゃないから、手紙を預かってもこの錬金術ギルドに届くのはそれよりもっと後になっちゃうんだ。

 それに行商人はイーノックカウからちょっと離れた街まで行って帰ってくる人ばかりじゃなく、帝都まで行ってからこっちに引き返す人も居るんだよね。
 もしそんな人に手紙を預けちゃったりしたら、ここに届くのはもっとず〜っと後になっちゃうもん。流石にそれは困るよねって、お父さんは言うんだ。

「そうですか。確かにそのような状況では少々問題がありますね。ですが私やロルフさんがグランリルに訪れるわけにも行きませんし、事が事ですから他の者に頼む訳にも行きません」

 困りましたねぇと言いながら頭を抱えるバーリマンさん。そしてその横では、ロルフさんもちょっと困った顔をしていた。

 と、そんな二人を見てお父さんはふと何かに気が付いたような顔をしたかと思うと、急に僕のほうに向き直ったんだ。

「そうだ、ルディーン。お前が司祭様の手紙を持って来ればいいんじゃないか?」

「えっ、僕?」

 なんか知らないけど、お父さんがこんな事を急に言い出したから僕は自分のほうを指差しながら頭をこてんと傾けた。
 だって僕、行商の人たちよりもっとこの街に来る機会は少ないよって思ったからね。

 でも、お父さんは僕がこの街に来る回数の事を行っているわけじゃなかったんだ。

「ああ、そうだ。お前、この町に入る前になんとかって言う魔法の実験をしてたろ。その時ブラックボアの魔石が後一個あれば、村とこのイーノックカウの往復が出来るって言ってたじゃないか」

 そっか。お父さんにそこまで言われて、僕は何が言いたいのか解ったんだ。

 そうだね。ジャンプの魔法を使えば村からイーノックカウに来るのは一瞬だし、村の入り口にも魔法陣を置けば帰るのも一瞬だ。

「確か後一個ブラックボアの魔石がいるとか言ってたけど、そんなのは家に帰れば多分一つくらいは転がってるだろ。なに、無かったら森に狩りに行けばすむだけの話だ」

「そう言えばそうだね。僕が司祭様の書いたお手紙をここに持ってくるよ」

 便利な魔法を覚えたんだから使わない理由も無いし、この魔法なら毎日でも手紙を届けられるからロルフさんやバーリマンさんも喜ぶもんね。

 これでこの問題は解決だ! って僕とお父さんは二人で盛り上がってたんだけど、その横ではバーリマンさんたちが話しについていけずに居たみたい。

「えっと、ルディーン君が手紙を持ってくるって……流石に一人で来させるのは危ないのではないですか?」

「いや待て、ギルマスよ。カールフェルトさんはルディーン君がなにやら新しい魔法を実験したと言っておったではないか。ならばその魔法が何かを聞いてみれば、ルディーン君を1人で寄越すと言う話の意図も解るのではないか?」

 僕が1人でこの街まで来ると聞いて心配そうにするバーリマンさんに対して、ロルフさんはその前のお父さんの言葉を思い出してそんな事を言ったんだよね。

 でもそう言えば前にロルフさんが転移の魔法って失われたって言ってたよね。

 髪の毛や肌を綺麗にするポーションだけでもこんな大きな騒ぎになってるのに、僕が転移の魔法を使えるようになった事を教えちゃっていいのかなぁ?

 そんな事を考えて僕はどうしようかって思ったんだけど、

「ああ、ルディーンは村から一瞬でイーノックカウまで移動できる魔法が使えるようになったらしいんですよ。ただ、村に帰るにはもう一つブラックボア以上の魔物が持っている魔石がいるらしいから、今はまだ村には一瞬で帰れないらしいんですけどね」

 そんな事を知らないお父さんが、あっさりとばらしちゃんたんだよね。

 だから僕はロルフさんたちがどんな反応をするんだろうってちょっと怖くなったんだけど、そう持って二人の方を見ても無反応。

 えっと、もしかしてこの話を聞いたらびっくりするんじゃないかって思ってたのは僕だけなのかなぁ? なんて一瞬考えたんだけど、それは大きな間違いだったみたいなんだ。

「いっ、一瞬で移動? えっと……えっ? 一瞬?」

 無表情のままバーリマンさんがそんな事を言い出すと、

「魔石じゃと? 魔石があれば一瞬で移動できる? それはまさか、転移か……転移魔法なのか!?」

 今度はロルフさんが最初は小さな声で呟いてたんだけど、最後は目をむきながら大きな声でそんな事を叫んだんだ。

 ああ、やっぱり大騒ぎになるのか。
 それはそうだよね。だって転移魔法はお空を飛ぶ方法と一緒で失われたって言ってたもん。

 そしてロルフさんは大きく目を見開きながらカウンターから出てきて、僕の両肩をガシって掴んだんだ。

「どうなんじゃ、ルディーン君。本当に、本当に君は転移の魔法を身につけたというのか?」

「えっと……うん。どこにでも移動できるわけじゃないけど、3箇所だけなら一瞬で移動できる魔法は使えるようになったよ。あっ、でも今はまだイーノックカウの外にある休憩所だけなんだけどね」

 ロルフさんのあまりの剣幕に、つい僕はそう答えちゃんたんだ。

 そしたら僕の両肩を掴んでた手の力が急に弱くなって、その後へなへなって感じでロルフさんはへたり込んじゃったんだ。

 そして気が抜けたような顔をしながら、僕の目を見つめて、こんな事を言ったんだよね。

「ルディーン君、前にも言ったが転移の魔法は失われて久しい。それだけに多くの者たちが研究し、それでも誰もたどり着けなかった物なんじゃ。そんな魔法を君はどうやって身につけた? いや、どうやって知ったのじゃ?」

 ロルフさんに聞かれて、僕はどうしたらいいのかなぁ? ってちょっと考えたんだ。
 でも前世の記憶の話をしてもロルフさんは信じてくれたし、ここで話しちゃっても多分信じてくれるよねって思ったから、僕は素直にステータスの8レベルで覚える魔法の中にあったんだって教えてあげた。

「ステータスの魔法の一覧じゃと? ああ、そう言えば前にルディーン君は、自分の使える魔法をステータスで見る事ができると言っておったな。そうか、ステータスを見る事ができる魔法使いなら知る事ができたとは。研究に明け暮れる者たちがたどり着けぬわけじゃ」

 そしたら、それを聞いたロルフさんは小さく笑いながらそんな事を呟いたんだ。




 前にステータス画面で使えるようになった魔法を知る事ができるとルディーンが言った時に、外に洩らすなとロルフは言いましたよね。
 でも本当はその時に自分だけでも、使える魔法を聞くべきだったのです。

 ロルフ、痛恨のミス!w


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